長期療養患者さんの「こうありたい」をサポートするアセスメント

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#1860 2022/06/26UP
長期療養患者さんの「こうありたい」をサポートするアセスメント
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患者さんの「こうありたい」をサポートする上で、アセスメントは看護師にとって必須のスキルだと思います。慢性期の病院や医療提供のできる施設において、長期療養患者さんの「こういう風に毎日を過ごしたい」「家に近いかたちで生活したい」という思いは、生活の質を考えるうえで非常に重要です。そのひとの生活に、疾患や療養環境がどう影響を及ぼしているのか焦点をあてることによって、看護師がなにをすべきかがみえてきます。

療養病棟で働いていた時の話になります。

長期療養患者さんの毎日の喜び

難病のため、長期療養されている高齢女性患者さんの話です。この方は、徐々に身体の機能が衰え終日介助が必要な状態でした。栄養は経腸栄養でとっており、口からは食べていなかったのですが洗面所で口腔ケアを自身で一生懸命やられていました。そのため、口腔内はいつもきれいで身だしなみも整っていたことをおぼえています。日中は、移乗介助にて車椅子に乗り、毎日面会に夫がくるのを楽しみにしていました。面会中、夫と話をしたり、家で可愛がっていたインコの動画をみて明るく過ごされていました。認知症もありましたが生活に大きく支障はなく生活できていました。笑顔が特徴的で毎日を楽しんでおられるようでした。

コロナ渦によってもたらされたもの

世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、病院は面会制限を余儀なくされ毎日の夫の面会もできなくなりました。日中の日課がなくなり、可愛がっていたインコの様子もみることができなくなったことで笑顔が消えていきました。車椅子に乗るのも断るようになり、ベッドにいる時間が長くなっていきました。日中、寝ていることが増え、夜に覚醒し夫の名前を叫ぶようになりました。洗面所にいかなくなり、口腔内は乾燥と汚れが目立つようになりました。臥床時間が長いため、重力で頭が後ろに傾き下顎や頬が後退したため顔貌も変わってきつつありました。主疾患こそ大きく進行しませんでしたが、環境により認知機能が後退し身体が廃用してくるのは目に見えていました。この当時は、ZOOM面会も導入されておらず、家族とコミュニケーションをとる手段が非常に少ない状況にありました。これまで、この方の生活を豊かにしていたものがなくなりつつあり、この事態をくいとめることができるのは看護師しかいないと考えました。

疾患や環境が与えている影響をアセスメントする

日中の日課である面会や可愛がっているインコの様子がわからなくなり、認知/知覚における外的な刺激が失われました。また、日中の車椅子乗車をしなくなったことで天井ばかりをみる生活になりました。また、足底をつけないことで脳の覚醒を司る部位への刺激が減ってしまいます。洗面所に行かなくなったことにより、口腔ケアや手洗いで得られる、感覚野への刺激が減少していきました。昼夜が逆転したことで、自分の状況が把握しにくくなり認知症の症状を加速させていたようです。ベッドにいることが長くなったことで顔や首周りの筋が衰え、全身の筋肉が縮んできていました。膝が曲がらなくなってしまうことで移乗が困難になることが予測されました。車椅子乗車をしなくなったことだけでもこれだけの身体への不利益を生みだしていました。口腔ケアを自身でしなくなったことにより、口腔内の清潔をたもてなくなりました。このままでは、刺激による唾液分泌が低下し、ますます汚れていく一方です。 ここから、看護師がなにをすべきかがみえてきました。そして、具体策をたて介入を進めていきました。具体的な行動は以下のようなものです。 ①患者さんが療養生活を送る中で「こうありたい」という希望をききとります。 ②その目標にむかっていけるよう具体的な行動を患者さんと考えます。 ③午前午後に15~30分の車椅子乗車をすすめていきます。 ※患者さんが慣れてくるまではモニタリングが必要です。 ④ 洗面所にいき、口腔ケアと整容の習慣が戻せるよう移動やセッティングを サポートします。 ⑤覚醒しているときは、公衆電話で自宅の夫に電話できるよう協力体制を整えます。 ⑥夜間どうしても眠れない場合は、医師と相談し睡眠薬を検討します。 (できれば睡眠ホルモンに作用し、睡眠のリズムが整う睡眠薬を提案します。)

まずは生活のリズムを整る

最初は、覚醒するのも難しい時もあり起きたとしても車椅子に乗るのを嫌がっていました。様子をうかがいながら、夫に電話をかけることやインコの様子をききましょう、という声かけをしていきました。少しずつ車椅子乗車できるようになり、看護介入をしていくなかで徐々に効果がみられてきました。車椅子乗車は10分から始め、日を追うごとに延長し午前午後あわせ2時間おきていられるようになりました。洗面所にいく習慣が戻ってきたことで、口腔ケアや整容におけるセルフケア能力を再び獲得しました。それにより、洗面所で鏡をみながら笑顔がみられるようになってきました。口腔内は湿潤し、髪型も整い昼夜のリズムも整ってきました。身体機能においては、移乗時に身体支持でできる時があり、手すりを使った5mの歩行もできるようになりました。

どの時間が最も覚醒がよくなるか見極める

毎日行っていく中で、午前9~11時が最も反応が良いことがわかりました。具体的にいうと言葉の明瞭度が増し、会話の成立が良いといったところです。細かいことですが公衆電話から電話するときにこういったことは非常に重要です。そして、覚醒の良い時間にできることを考えました。まず、10時になり車椅子乗車をしました。そして洗面所に行き、口腔ケアや整容の日課を行います。毎日行えるよう、病棟職員に目的と方法を周知し統一して実施できるようにしました。言語聴覚療法が行われていたため、言語聴覚士と話しあい訓練のある日は9~11時の間に訓練を行ってもらいました。バイタルサインや表情、姿勢をみながら疲れていないかを確認し、電話口にいきました。

電話とインコ

初めて、公衆電話の受話器をとり夫の声を聴いたときの表情が印象的でした。電話をかけているときは、すごく不安そうな硬い表情でしたが夫の声が聞こえたとたん笑顔があふれました。そして、夫の声の後ろからインコの鳴き声が響いていました。受話器から漏れるほどのインコの鳴き声に、その患者さんは涙を流していたのをおぼえています。急いで近くにいた事務の職員にティッシュペーパーをかり、本人に渡し涙を拭いてもらいました。電話での会話が終わるころ、夫から看護師さんに代わってほしいといわれ受話器をとりました。「こんなことをしてもらえるとは思わなかった。元気な声を聞いて安心しました。看護師さん、忙しいなかすみませんが週2回でいいから電話をしたい。どうかよろしくお願いします。」という言葉をいただきました。

スタート地点とゴール到達を意識することが重要

こうした関りは個別性に応じた看護を行ううえで非常に重要だと考えます。個別性に応じた看護展開をしていくには、スタート地点とゴールとのギャップを捉えることが必要です。今回のケースでいうと楽しみが失われ、活気が落ちた状態で過ごしているのをスタート地点とします。ゴールは対象となるひとの「こうありたい」と思う生活です。スタートからゴールを阻んでいるものに焦点をあて、アセスメントしどうしたら解決できるかを考えます。このケースでいうと、面会制限、昼夜逆転、閉じこもりがちになったことが生活に大きく影響し、ゴール到達を阻んでいました。この阻害要因をアセスメントし、解決していくことでゴールに到達に至ったと思います。  

まとめ
長期療養患者さんで病状が安定している方においては生活をとらえる視点がとても重要になります。特にコロナ渦に入ってから、病院での生活様式は大きく変化しました。こうした中で療養中の多くの方に、閉鎖的で孤独な時間がうまれてしまいがちです。そのことが生活の質に大きく影響を及ぼすことがあります。今回の事例では、生活の質が低下していくなかで、療養生活をどう整えていくかが重要なカギになりました。それをするうえでの土台が、患者さんの希望を捉えることと看護師のアセスメントになるとおもいます。 これはどのフィールドで働く看護師にとっても重要なスキルですが、慢性期領域の看護師では必須といえるでしょう。

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