実際に急変した患者さんで、急変前から私たち看護師が感じていたせん妄の遷延、ADLの著名な低下などの違和感や情報を事後になりますがアセスメントしました。
患者さんが発しているサインをキャッチして常にアセスメントしていくことが重要だと感じました。
私は急性期病院で心臓血管外科の看護師として働いています。
心臓血管外科の手術は侵襲が大きいため、ほとんどの患者さんは多かれ少なかれせん妄のような状態になって病棟にかえってきます。近年では患者さんの高齢化も進んでおり認知機能の低下がもともとあった患者さんだと特にひどいせん妄、認知機能低下状態で病棟帰室になります。さらに、緊急入院やベッドコントロールにより入院前の状態が全く分からない患者さんではせん妄なのか、認知機能の低下で改善しないものとして扱うべきなのかわからないことも多くなっています。
そのような中で、他病棟に緊急入院し、そのまま手術になった患者さんが術後私の病棟に入ってくるということがありました。
高齢の患者さんで病棟に来た時から耳が遠いこともありぼーっとしており、反応があるのかないのかもわからないような状態でした。かろうじて聞こえていても受け答えは質問と食い違っていることが多く辻褄の合わない発言もありせん妄か認知症を真っ先にうたがいました。
手術前に1週間程度ベッド上安静の期間がありましたが、歩行練習しようとしても歩行器につかまって数歩歩くのがやっとでとても1週間のベッド上安静とは思えないようなADLでした。やる気も全くなく、常にベッド上に寝ており少し横を向くだけでも自分でできるのにナースコールを押して看護師を呼び、多いときには10分置きにナースコールがなるような状態でした。
私たち病棟看護師はこのような状態の患者さんに対してどうしてこんなにもやる気がないのか、入院前は自宅でどうしていたのか気になり家族に連絡したり、入院時の記録を確認したりして入院までの経過や入院時の状況を確認しました。もともとめんどくさがりな一面があり、なんでも家族に任せていて自分ではほとんど何もしなかったという情報はありましたが、入院前のADLは特に問題なかったとのことでした。
今となってはその時点で少しおかしいなとアセスメントできるだけの情報があったと思いますが、その時はもともとめんどくさがりだったからやらないだけだとみんなで思い込んでしまいました。
その後、その患者さんは夜間に強い腹痛と止まらない血便がありCTをとると腸管壊死していたことが発覚しました。とても危険な状態で早期に手術をしなければ助からない、手術をしても今のような状態に戻れるかわからないと家族にICがありました。家族の同意が得られそのまま緊急手術となり、その日のうちに手術は終了、集中治療室を経て再び病棟に戻ってくることができました。
集中治療室在室時間はそれほど長かったわけではなくむしろ私たちがかんがえていたよりもはるかに短く、またナースコールが鳴りやまなくなるのかと辟易していたくらいでした。
病棟に戻ってくるとこれまでの難聴は嘘だったかのように耳の聞こえがよくなっており受け答えもしっかりできるようになっていました。さらに驚いたのが手術前より認知機能やADLが格段に良くなっていたことです。やる気がないのは相変わらずでしたが、歩行器を使用しても数歩でやっとだったはずが数十メートル歩行できるようになっていました。受け答えもしっかりできており意識清明、やる気がないのは本人の性格だろうと自身をもって言えるような状態です。
この患者さんの状態を見て、私たち看護師は初期のアセスメントがうまくいっていなかったことを痛感しました。
情報として
・何をするにもやる気がない
・ベッド上で身動きするのにも看護師をよびだしていた
・認知機能が低下しているか、せん妄が遷延している
・ADLの著名な低下
というサインをキャッチしていました。
これらの情報からアセスメントしていくと、まずせん妄が遷延していたという点が気になります。
術後日数が経過してもせん妄が遷延しており改善しないときにまずは、身体疾患がまだ改善していない可能性を疑います。
せん妄は術後の低活動や侵襲なども誘発要因にはなっていますが、基本的に発症する原因は身体疾患です。医師を中心に原因となっている身体疾患の治療を行い、看護師は誘発、悪化しないように生活の援助をしていくことが基本になります。それでもせん妄が改善しない時には他の疾患、脳梗塞、脳出血、認知症などないかも疑われます。せん妄と認知症、脳血管疾患の鑑別は難しくすぐに判断することはできないのでせん妄改善見られない時には看護師からも医師に相談したりします。実際にそれで脳梗塞の発見に至ったこともありました。
今回の事例ではすでに術後数週間経過しておりせん妄が改善しないのはおかしい、と思うべきだったと思います。せん妄遷延から身体疾患の悪化や新たな身体疾患を疑うきっかけになった可能性はあったと痛感しています。
さらに、やる気がない、看護師が考えている以上に動けないことについてもアセスメントの余地があったのではないかと思っています。
通常、手術前に集中治療室に入り管理をしながら1週間程度手術を待つことは多くはないですがあることです。そのような患者さんたちはみな一様に筋力低下があり、ひどいときには立つのがやっとで膝が折れたり震えてしまい歩行できない人もいます。ですが、術後早期にリハビリを開始しており毎日PTさんや病棟看護師によるリハビリがあるため数日で改善が見られていくのが一般的です。
この事例ではリハビリをつづけていたにも関わらずベッド上の動きですら一人で行わなかったことから、倦怠感やいわゆる普通の術後の筋力低下以上に体が動かなかった原因があった可能性がありました。
高齢者は常に昔と比べて動きにくくなっていることを感じており、看護師に手術のあとで筋力が落ちているから、と言われればそれ以上に変だと思う気持ちを伝えられなかった可能性もあったと反省しました。
術後本人に確認してみると手術前のことはほとんど覚えておらず、意識がはっきりしたのは2回目の手術の後だったと話していたためやはり動けなかったことも意識などとかかわっていたのかなと思います。
今回の事例では緊急入院だったため術前の情報がわからず、その患者さんの正常な状態がわからなかったことがうまくアセスメントできなかった原因だと思います。
術前の状態がわかるならわかるに越したことはないですが、実際には緊急入院で意識のないまま入院してきて手術ということも多いため術前の情報が得られないことも多いです。この事例を通して、患者さんの状態を性格やその人のキャラクターかもしれないと決め付けずに、患者さんの訴えをよく聞き、おかしいことはおかしいとキャッチして時間をかけて変化をみてアセスメントしていく必要があると強く感じました。
急変する患者さんではその前から何かしらのサインを出していることが多く、それをキャッチできれば重篤な状態を回避できると思います。私たち看護師は患者さんの状態から変化をキャッチして、最悪の状態も想定してアセスメントしていくことも大切だと思います。
まとめ
急変の前には何かしらの予兆があることが多く、それをキャッチしてアセスメントにつなげることが重要だと思います。
特に、術後好発のせん妄は患者さんの身体疾患を把握するのに役立つことも多いです。せん妄といえばなかなか治らない、自己抜針など厄介なインシデントにつながる悪い印象もありますが、身体状況をアセスメントしていくうえで重要な情報になることもあるということを覚えておかなければならないとおもいました。
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