病院から在宅へ移行する時には、ある程度のADLがあがった時に判断されることも多いです。しかし、実際の在宅生活では介護力等の問題から、徐々にADLが低下してしまうということもあり得るのです。なぜ起こるのか、ADL低下を防ぐためにどうすればいいのか考察していきます。
病院から在宅に移行できる場合、在宅生活に戻るとどのような動きが必要になるのかということを想像しながらリハビリを進めていくことになります。それを考慮してリハビリを進めていっても、在宅生活に戻ると、さまざまな理由でADLが低下してしまうことがあるのです。
どのような理由で、そのようなことが起こるのでしょうか。またそれを防ぐことはできるのでしょうか。ここでは、在宅生活の中でADLを低下させず、日常生活を進めていけるようなコツを紹介します。
・平行棒内歩行までできていた利用者が、在宅に戻ってからほぼ寝たきりに
ある利用者は、退院する前のカンファレンスに参加させてもらったときに、「この方は平行棒歩行までできる。それも1往復ではなく、頑張れば3往復くらいできる。本人は自分でポータブルトイレに移動できることを目標にしている」と話を聞きました。
そのリハビリの状況を聞き、私たちは、自宅にポータブルトイレを置けば何とか排泄行動はとれるかもと期待を寄せました。またそのカンファレンスには、ケアマネや家族も参加していたので、退院に合わせて必要な福祉用具の中にポータブルトイレを入れていたのです。
しかし、この利用者、在宅に戻って1カ月間、看護師が訪問するとき以外、ほぼ寝たきりの生活でした。そして次第に環境による要因も影響し、本人の気力もなくなり本当に寝たきりになってしまったのです。
・利用者の退院前のADLから、退院後の生活を予測する難しさ
私たち看護師は、利用者の状況を聴取すれば、ある程度想像できることがあります。ADLの状況を聞けば、退院後はどの程度移動することが出来るのかな、実際の動きを見せてもらえば、ポータブルトイレへの移動は出来そうだとわかります。そのように、聴取した情報と、さらに利用者と対面し動きを見ることで、さまざまなアセスメントを行っていきます。
しかし、家族はなかなか想像することが難しいのです。このくらいでは、動かすのは危ない。まだまだ介助がたくさんいるから、家族では介護することはできないと始めから不安を感じる人もいます。
初めて介護をする人にとっては、退院後の生活を予測することは簡単ではないでしょう。また不安が募るのは当たり前のことです。ただ本人も家族も病院から施設などではなく、在宅を選択する場合には、訪問看護をはじめとする在宅サービスを利用しながら、支えていくことが重要だと常に感じています。
・退院前の家屋調査の重要性
病院から在宅生活に戻るときには、病院の看護師や理学療法士、また相談員やケアマネ、家族などが立ち合い、家屋調査というのが行われることが増えています。その目的は、在宅生活を送るために必要なリハビリを行っていくため。
病院では、リハビリの機械を利用したり、平行棒を利用するなどしてさまざまな運動を行います。しかし、病院の環境と自宅の環境は大きく異なります。ちょっとした段差もありますし、居住空間の違いも大きいのです。それらを実際にみんなで見てアセスメントすることで、より具体的にリハビリ案が出てくるのです。
利用者が退院することが決まると、家族が手すりを廊下やトイレにつける住宅改修を行ったり、介護ベットやポータブルトイレを置くなどのサービスを活用することが少なくありません。また私たちもそのようなものが必要になるのではないかと、入院して早い段階で家族に助言することもあります。
しかし、実際に家屋調査に行くと、家の構造や室内環境から手すりをつけるのは難しいなども問題が起こることも。そんな時には、福祉用具を扱う業者と相談して、手すりのタイプを相談し、取り付け可能なものを検討する必要があります。
また介護ベットとポータブルトイレなどは、置く場所がないほど物であふれているお宅もあります。そのような場合には、まず家族にお願いして屋内の掃除から始まり、生活スペースの確保することが必要となります。
このように家族から話を聞くだけとは異なり、実際に家屋調査に行くと、さまざまな問題点が見えてきます。家庭の環境もあるので、すべての問題をクリアするのは簡単ではありませんが、安全な生活空間を確保するという面では、事前の家屋調査はアセスメントするためにとても重要なことだといえます。
・介護力の問題から、寝たきりにある事もある
今回の事例の利用者は、在宅生活になった時、家族と一緒に生活を始めました。私たちも家族がいるなら、介護力もあり安心と思いました。しかし、家族によっては、簡単には安心できないなと思わされる場面がいくつかあったのです。またそのために寝たきりになってしまうとはだれも想像していませんでした。
同居する家族二人いたのですが、仕事を持ち毎日出勤して帰宅するという生活を送っていました。そのため、日中は利用者一人になっていたのですね。退院直後はポータブルトイレも可能だったのですが、家族からは「一人で動くと危ないから、あまり動かないように」といわれていました。リハビリパンツを使用していた利用者は、あまり自分が動いて何かあったら、家族に迷惑をかけてしまうと思い、なるべくベット上で過ごしていたのです。
また環境も問題も大きく影響しました。在宅生活を始めたのが10月。その時にはまだそれほど寒くはありませんでしたが、だんだんと冬が近づき、昔ながらの家屋だったため、とても寒かったのですね。高齢者の中には、こたつは利用するけれど、ヒーターやストーブ、エアコンはあまり利用しないという人も少なくはありません。事例の利用者の場合も、エアコンは取り付けてあったのですが、リモコンの操作もよくわからず使いこなすことが出来なかったのです。
寒い部屋で過ごす利用者は、布団にこもっているしかありませんね。それが一番温かいのですから。そのような生活をしているうちに、床ずれが出来、徐々に自分では動く意志もなくなり、ほぼ寝たきり状態になってしまったのです。
・サービスの検討にも家族の意向が重要
在宅生活に戻るときに、どのようなサービスが必要となるか検討をします。現在は、訪問看護を始め、訪問介護、訪問リハビリなどもあります。それぞれ専門の人がかかわることにより、足りない介護力を補うことが出来ますし、家族の負担も減らすことが出来ます。
しかし家族の中には、あまり家に多くの人が出入りすることを好まない人もいます。またたくさん利用したいけれど、金銭的な問題もあるので検討中という人もいるのです。実際はケアマネージャーがその利用者の介護度に応じて、必要な介護サービスを検討し、家族と相談しながら進めていくのですが、なかなかすぐに受け入れられないことも少なくありません。
在宅生活では、利用者の安心安全な生活も重要ですが、それを介護する家族にも仕事などの事情もあるので、介護をスムーズに進めていくことは容易ではないのが現状です。ただ、在宅医療に携わる私たちとしては、利用者も家族もサポートしながら、それぞれの生活リズムを保ち安心して生活をしていってほしいと常に考えています。
まとめ
いかがでしたか。病院から在宅生活に戻るときには、さまざまな問題が発生します。時には入院中には予測できないこともあるので、せっかく在宅生活を開始してもADLが徐々に低下してしまうこともあります。訪問看護では、そのようなケースにあたることもありますが、利用者も家族にもどのようにかかわっていくべきか常に考えて対応していく必要があります。ぜひ参考にしてみてください。
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