今回の内容はわかりやすい症例を使用しながら数値にとらわれることがなぜ危険なのか、患者さんの背景にあるものをしっかりと見つめ、効果的な治療に繋げれるよう情報収集することがアセスメントにつながることを紹介していきたいと思います。
患者に対するアセスメントのコツを診療と診療の補助の観点からわかりやすい症例を2例加えてお伝えしたいと思います。
臨床で働いている看護師の皆さんが思い浮かべる最悪なシナリオは患者さんが急変しそのままなくなってしまうことだと思います。最悪なシナリオを迎える前に何か介入することはないか?どうやったら最悪のシナリオを脱することが出来るのかというのが今回のアセスメントのテーマになってくると考えます。大きな病院(大学病院や総合病院)ではMET(メディカルエマージェンシーチーム)とかRRT(ラピッドレスポンスチーム)が最近になって配備されつつあります。この緊急時に招集されるチームの目的は患者さんの最悪のシナリオを予防することになります。患者さんは心停止を起こす8時間前に何かしら異常なバイタルを示していると公表文献で示されています。病院によってMETやRRTをコールする基準は様々ですが、一例として、①気道が危険な状態。②呼吸数が1分間あたり6回未満または30回を超えるもの。③心拍数が1分間に40回未満または140回以上を超える。④収縮期血圧が90未満⑤症候性高血圧⑥予期せぬ意識レベル低下⑦原因不明の興奮⑧痙攣⑨尿量の優位な低下などがあげられます。このような状態を認識したらコールしましょうという判断基準になります。
実際にBLSやACLSアルゴリズムにおいても救命の連鎖の中に、病院内の心停止は予防が必要とされています。そのくらい観察力を持ったアセスメントが今の看護師には求められているということです。異常の早期発見ができるかどうかで患者さんの予後が変わります。
では実際にどのようなことを行えばいいのかを診療や看護の観点から話していきます。まずは患者さんの状態は普段と比較して安定しているのか?それとも不安定なのかを見極める必要があります。
簡単な症例を2つ出して、紐解いていきましょう。
1:30歳女性、前日に彼氏より別れようと連絡があり、昨晩はまったく眠れなく、胸のドキドキが止まらなくて来院しました。
SpO2:98% HR140回。血圧120/60。呼吸は促迫しており、瞼も腫れている状況。
この時のバイタルを見ると気になるのはHR140回と呼吸数ですね。数字だけに囚われると頻拍と回数は不明でも頻呼吸が疑われます。この数字だけにとらわれると140回は異常です。循環器にコールするか、もしくはアデノシン三リン酸(アデホス)を投与するか?それか同期電気ショックを実施するか?になります。しかし患者さんの情報を収集するとどうも、彼氏と別れたことがショックで夜も眠れず精神的に不安定となっている。まずは呼吸が落ち着くように話を聞いたり、心拍数を下げるために※迷走神経刺激を行ってみることが先決ですよね。
※迷走神経刺激とは、患者さんの瞼を閉じてもらいぐりぐりと押したり(網膜損傷のリスクがあり注意が必要)、深呼吸を行い息を止めた状態で数十秒我慢してもらいます。そのあとゆっくりと息を吐き出す行為を行います。また頸動脈を上下にマッサージするやり方もありますが、高齢者や高脂血症や糖尿病患者さんは血栓を飛ばすリスクがあるため注意が必要です。また優位半球は左なので右の頸動脈をマッサージすることも視野に入れておく必要があります。頻脈に対する迷走刺激は25%改善が認められると言われています。
さらに修正バルサルバ法:上体を45度程度挙上した姿勢で強制呼気(10mlのシリンジを口側から吹いてもらい, ピストンが動く程度の圧力をかける. 40mmHg程度)を15秒施行。その後すぐに仰臥位とし, 下肢を受動的に45度挙上する。 挙上は15秒間継続を行うとなんと40%異常症状が改善されるというデータが得られています。臨床の場面では試してみる価値は十分にあると思います。ただしもしもの時に備えて救急カートなどをおいて置くことが必要です。
診療の観点からすると動悸だけの症状は安定として扱います。もちろん初見として肺の音を聴診したり、12誘導心電図をとったり、胸部レントゲンを撮ったりして異常所見を除外していきます。現場の看護師として行った方が良いのは数字にとらわれるのではなく患者さんの身体所見をアセスメントし、背景にある治療可能な原因を検索することです。
では2例目です
2:30歳男性。既往:アルコール中毒。いつものようにお酒を飲みすぎて救急車で搬送されました。病院到着後に吐血が一回見られています。
SpO2:97%HR120回 血圧90/50 お酒を飲みすぎて声かけに対しての明確な返答は得られません。
ではこの症例の数値を見ていくと酸素も97%で保たれている。血圧も問題なさそう。脈拍は少し早いけどお酒を飲んでるしな。になりがちです。しかしこれは大きな落とし穴なんです。では背景を読み取っていきましょう。まず病院到着時に吐血が見られた。これは救急隊が搬送する前にも同じように吐血をしていたのではないかと疑ってかかることを忘れてはいけません。酸素が97%あっても、出血が持続することで抹消が締まることや、酩酊状態から呼吸が抑制され低酸素に至ることも考えられるので酸素投与の準備が必要になってきます。HR120回に関しては、少し早いかな?ではダメです。循環血流量が減少することで、心拍数が増加し血圧を保とうとする働きが体の中で行われています。これを相対的徐脈といます。この状態を放置しておくと、血圧は触診で60台。心拍数は100→80→60と低下していき、それに伴い状態も悪化していきます。ここでも数値にとらわれるのではなく患者さんのおかれている状況や背景を読み取ってアセスメントする必要があります。診療においては、酸素を投与し、モニターを装着。点滴ルートの確保と同時に採血を行い、必要に応じて輸血の準備と内視鏡による止血処理の準備まで行わなければなりません。
このように患者さんの数値だけで判断するのではなく、その背景にあるものをしっかりと分析してからアセスメントすることが大切です。なんで自分が安定したと判断したのか、または不安定な領域だと判断したのかを考えながら患者さんを観察することがアセスメントをうまく行うコツです。何度も言いますが数値やデータをいくら覚えていても、背景を読み取ったアセスメントができなければ異常に気がつくことは出来ません。日頃からの看護で意識するだけでアセスメントの訓練にもなりますし、必要に応じてBLSやACLSのトレーニングを繰り返し訓練しておくことも重要です。臨床での経験を行うことで成長する部分は大きいのですが、経験を待っていては助かる命も助からない場面が必ずあります。そのような場面に遭遇したときに後悔しないように、1人でも多くの患者さんを助けることが出来るように、日々勉強していくことをお勧めします。
まとめ
いかがでしたでしょうか?看護師として働いていると、血液検査データや異常なデータを暗記しがちになります。臨床ではテキストのようなデータが得られないことは多々あります。そのような時に勉強したことと実際は違っていると思うのではなく、患者さんの背景に何があって、体の中がどのような状態なのかを冷静に判断することが重要です。アセスメントは日々の観察や勉学によって補うことができます。明日から実践していきましょう。
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