病院だけではなく、施設・訪問先はもちろん、町中でも緊急時対応が必要な場面は少なく有りません。1分1秒を争う場面に遭遇することも…。そのような場面では医療従事者として最善を尽くそうという気持ちだけではなく、的確な判断力が求められます。そのために簡易的な身体状態の把握方法が大切です。
◯超緊急時のフィジカルアセスメント
普段と何かがおかしいと感じる場面や、町中で人が倒れているといった場面に遭遇することは医療従事者として働いていると少なからずある事です。そして、何かがおかしいという直感は概して当たるもので、踏み込んだ対応が重要となります。そのような場面では、何が起きているのかを把握する事が重要です。
1.状況の把握
これは本人の様子を目視して得られる情報と、目撃者がいればその情報を統合して判断する事となります。
「急に倒れて返事がない」という状態であれば意識障害・脳血管性の異常を疑いますし、「胸を抑えて倒れた」であれば心肺の異常を疑います。また首を抑えるようにして倒れたのであれば気道の閉塞、窒息などを疑わなければなりません。手の振るえなどが見られるのであればけいれんなども検討しなければならないでしょう。どの部位に病変があるのかを把握することが難しい状況だからこそ、最初の状態がどうであったのかを把握する事は非常に重要です。
2.超緊急時の対応方法
超緊急時の場合、何よりもまずBLSの開始が必要です。BLSとはBasic Life Supportと呼ばれるもので緊急時の初期対応として非常に重要なものです。
②この時点で反応がなければ急変と捉え、周囲に応援を依頼する。病院内であればドクターコール、訪問先や町中であれば救急車の手配やAEDの依頼をかけます。
③頸動脈を触知して、触れなければ胸骨の圧迫を開始します。胸骨の圧迫は1分間に100回~120回程度、30回の心臓マッサージごとに2回の人工呼吸を加えますが、心臓マッサージを優先します。
④また呼吸の確認を行い、呼吸が全くない状態もしくは弱い呼吸(死戦期呼吸)でないか確認をするとともに、気道の確保として頭部を後屈させて顎先を拳上させます。
⑤AEDの装着を行います。右胸と左胸側部にパッドを貼って音声ガイドに従います。電気ショックが必要かどうかAEDが判定します。
以前は意識確認→気道確保→人工呼吸→心臓マッサージの順番でした。現在では心臓マッサージによる蘇生法が最も有用とされているので上記の流れとなっています。またAEDによるショックが必要とされるものは心室細動(VF)と無脈性心室頻拍(PVT)に限られます。電気ショックが適応されないものとしては心静止と無脈性電気活動(PEA)があります。この場合、AEDによるショックが不要とされていても、心臓機能が戻っているわけではないので胸骨圧迫の継続が必要です。この後、病院では点滴ルートの確保であったり、気管挿管、心電図モニターの装着や救急医・当直医らによる薬剤投与の指示が行われていきます。
この超緊急時の対応で重要なのは呼吸・循環の確保です。生命維持に関わる機能なので安定化が最も最優先となります。
上記は心臓系に異常があった時に行う初期対応となります。脳卒中を疑うような状態(この場合片麻痺・感覚障害・失語・運動失調・失行、失認ないしは意識障害をきたしている)であれば、頭を水平にしながら臥床させ、嘔吐が強い場合には側臥位にすることが必要です。また明らかに麻痺側が断定できる場合には、麻痺側を上にするように寝かせます。本人の意識があったとしても歩かせずに寝たまま周囲で協力して運ぶことが重要です。
この場合の意識レベルの判定はJCS(Japan Coma Scale)ないしはGCS(Glasgow Coma Scale)にて行いますが、施設や高次救急医療施設へ搬送する場合はJCSでよいでしょう。
○各部位のアセスメント項目
身体のアセスメントは非常に難しいものがあり、経験がなければなかなか難しい項目もあります。しかし、基本的に見なければならないポイントを抑えることで的確なアセスメント技術の習得につながっていきます。フィジカルイグザミネーションは看護師が医師へ報告するうえで根拠を持たせるためにも必要な手技です。
・目の観察項目として、瞳孔の左右差・対光反射がないかを確認していきます。左右差や共同偏視が見られる場合には脳卒中やてんかん発作を疑います。
また眼瞼の結膜に蒼白があれば消化管出血の可能性がありますし、眼球自体に黄疸などがあれば胆管炎や胆嚢炎、急性の肝炎によるものを検討しなければなりません。
・頸部・胸部の観察項目として、頸静脈の確認が必要です。怒張があれば肺塞栓や循環不全、心不全(右心不全)、吸気時のものであればCOPDなどを疑います。
胸部のアセスメントでは心音の聴診にて心雑音・過剰心音がないかを確認する必要があります。また肺の聴診では呼気に笛音(Wheeze)が聞こえれば喘息発作を疑いますが、心不全の可能性もあるためその他のバイタルと関連した把握が必要です。一方で吸気に笛音が聞こえれば気道異物(窒息など)を考えなければなりません。
また、断続性ラ音(Crackle)として捻髪音と水泡音が聞こえた場合は間質性肺炎や無気肺や肺水腫などを疑う必要があります。また、呼吸音に左右差がある場合にも片側の肺炎や気胸・気管支異物を検討します。
・腹部の観察肛門としては触診により筋性防御(デファンス)や反跳痛(ブルンベルグ徴候)といった腹膜刺激症状の有無を確認し、あれば絞扼性イレウスや急性の飛燕や胆嚢炎、虫垂炎といった腹膜炎を考えます。また、腸音の明らかな亢進や金属音の聴取は腸閉塞を検討する必要が生じます。
・神経のアセスメントとして、四肢健の反射に左右差があれば脳卒中を疑います。また、膝立試験でも片側が自力で立たない場合も脳卒中を疑います。この場合立たない側が麻痺側となります。また項部硬直を認めた場合には脳炎や髄膜炎、くも膜下出血などの脳卒中を疑います。
・全身状態の評価として両側下肢か背部、または上眼瞼に浮腫があれば心不全を考える必要があります。一方で片側の下肢であれば下肢静脈血栓を疑う必要があります。
また急に浮腫が強くなった場合や、発赤・発疹が見られる場合にはアナフィラキシー症状の可能性も検討する必要があります。この場合は既往歴や直前に何をしていた(食事や薬など)を把握することが重要となります。
このように急変時だけでもかなり確認しなければならない項目があります。実際施設などではCTやMRIがない場合も少なくはなく、看護師による状況把握が急変対応の鍵となります。そのため、的確なアセスメントができるように平時から練習しておくことが重要と言えるでしょう。上記の項目はあくまでも素早く判断することが求められる時に見る項目で、実際各診療科や施設によって見なければならないポイントは一層増えます。日々の業務の中で少しの変化に気づきやすいのはよく接しているスタッフですので、早期介入を意識したフィジカルイグザミネーションが求められるといえるでしょう。
まとめ
身体症状の把握は看護者に求められる技術です。新人看護師であれば様々な教本や先輩看護師の指導をもとに身につけていかなければなりませんし、ベテランであっても繰り返し確認していくことが求められていくでしょう。これらの技術を駆使しながら、推論を立て最悪のケースに備えることが看護師としての役割であり責務です。素早く確実な情報を揃えることが急変時の対応を円滑にし、また患者さんの予後にも大きく関わることを思いながら、技術習得に努めていくことをおすすめします。
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