今回は、医療や介護現場でのインシデントとして多くを占めている『転倒』についてのアセスメントのコツについて話させていただきます。
まずはじめに自己紹介として私は30代前半で看護経験10年の正看護師です。所属している病院では医療安全の委員会で院内での安全の確保や医療事故等の原因や分析を行い再発防止のためにどのような対策が必要かを考えフィードバックしています。
まずはじめに、『転倒』にはどのような要因があるのかを考えていきましょう。
■転倒の要因について
転倒には大きく分けて3つの要因があります。
①内的要因
②外的要因
③行動要因
の上記3つに分類されます。
まず①の内的要因とはなにか?ということですが、内的要因は分かりやすいところでいうと、身体的疾患や加齢による筋力の低下、平衡機能の低下、薬物による影響などを指します。
この場合の転倒のケースとしては、高齢者の多い病棟や施設が該当します。
・トイレに向かおうとしてベッドから立ち上がった際にふらついて転倒した
・眠剤を服用した後に歩行した際にふらついて転倒した
・脳血管障害などによる後遺症で麻痺があり、身体が思うように動かず転倒した
・視力の低下がみられほ歩行への不安や歩行時のバランスを保持できずに転倒した
・長期入院による筋力低下により立位保持ができずに転倒した
などといった理由が内的要因での転倒です。
次に②の外的要因とはなにかについて説明します。
外的要因とは、居住スペースの段差、合っていない履物の着用、床が濡れているなどを指します。
例として挙げますと
・廊下を歩行していたら床が濡れていて滑って転倒した
・家族が持参したスリッパのサイズが合わずうまく歩行できず転倒した
・お部屋のベッドサイドが私物で乱雑となっていて、それが障害となり転倒してしまった
・夜間、部屋や廊下が暗かったために前方の構造が分からず転倒した
・点滴やモニターのラインに引っかかって転倒した
・入院したてで建物の構造が分からず転倒した
このようなケースでの転倒を外的要因での転倒といいます。外的要因は看護師側の働きかけで転倒のリスクを大幅に軽減できる可能性があることが特徴です。
③行動要因とはなにか?ですが、これが1番難しい問題であり、看護の現場でもアセスメントに困る要因です。
行動要因は患者や利用者が欲求に基づき行動することであり、看護師側はその行動に関して希望的観測に基づく行動の2面があります。
行動要因をさらにかみ砕いて説明すると、患者の欲求に対して看護師側は患者に対して、どのように行動して欲しいかということになります。
例を挙げますと
・トイレに行きたいと考えている患者がいるとして、看護師が「一人では行かないで援助を求めて欲しい」と考えるのか、「トイレくらいは一人で行ってほしい」と考えるのか、患者の行動に対してどのような希望をもつのかということになります。
看護師が前者の「一人では行かないで援助を求めて欲しい」と伝えた時に、患者が「分かりました。トイレに行きたい時はナースコールを押します」というのならば、転倒のリスクは軽減しますが、援助や介助を嫌う方も中にはいます。その場合は看護師には言わずに一人でトイレに行き転倒する場合があります。
逆も然りで、患者が援助を求めていても、看護師が「トイレくらいは一人で行ってほしい」という考えを持っていると、一人で歩行し転倒すること、または看護師に頼みづらい環境ができてしまい、トイレ以外の行動でも転倒のリスクは高まってしまいます。
しかし、看護師が行動一つ一つに介入していたら患者のADLは低下し、本来一人で行えることや行えるようになることまでも阻害してしまい、結果としてはADLの低下に繋がります。
そのため、患者の身体面や性格などから全体像をしっかりと捉えて、アセスメントしてアプローチしていくことが大切なのです。
■それでは、どのようにアセスメントをし、対策や再発防止に取り組むかという点についてお話します。
まず、転倒の要因として3つの分類に分け挙げましたが、対象となる患者が転倒するとしたら、どの要因が一番高いのかについて考えます。
その理由としては対策の必要性が薄いところのアセスメントをしたところで、転倒の予防などには繋がらないからです。
高齢で複数の疾患を持っている方に自身に合った履物を選択しましょうなんて計画を1番に挙げても予防にはなりませんよね。
それならば、疾患から考えられる身体への影響や服用している薬の作用や副作用から考えられる身体への影響について優先的にアセスメントした方が患者の安全の確保に繋がります。
どれが必要で、どれが必要ないという考えではなく、どれも必要だけど優先順位があるという認識でアセスメントした方が包括的に支援できるのでオススメです。
■優先順位をつけれない方へ
優先順位のアセスメントが難しいという方は、一度『転倒』というワードから離れて考えてみましょう。
そして、その患者にとっての現在の問題点はなにかを考えましょう。
そうすることでアセスメントが格段にしやすくなります。
例えば、内科の所見で入院した急性期の方は、症状の鎮静化をまずは図るわけなので、身体的な症状の出現の有無をメインに観察することになります。
症状を抑えるために薬物療法をメインに行うと考えれば、必然と『転倒』については内的要因でアセスメントするのが主になります。
身体面では落ち着いているものの認知症や精神疾患を持っている方なら、服用している薬物には注意は必要ではありますが、看護師が意図しない行動をとることが多くみられますし、その際に言語介入による修正が難しい患者さんとして把握していれば、行動要因をメインにアセスメントすることができます。
このように、一度患者の現在の問題点や治療のメインとなっていることはなにかを整理し明確化することにより、その問題点とリンクして『転倒』のアセスメントをすることができます。
■優先順位をつけたら行うこと
優先順位が決定したら具体的な対策としてどのようなことができるかを考えます。
先程も記載しましたが、どれが必要で、どれが必要ないということはなく、包括的に考える必要があります。
その際に患者に対してのアプローチとしては、転倒の危険性についての説明をしっかりと行い、患者に行ってほしいこと、避けてほしいことをお伝えします。
説明したことに対し、どの程度理解しているか・実践できているかを把握することが大切です。
一度説明したから大丈夫であろうという考えをもつと後で後悔することになります。理解度や認知レベルに沿って丁寧に説明や必要な指導を行いましょう。
また、直接的なアプローチ以外にも、主に外的要因にはなりますが、ご家族の理解度が不足していて、患者に適してない履物や衣類を持ってきていないかの確認をし、必要時、指導の実施をすることも間接的なアプローチとして必要です。
他にも、病院内で患者が危険や不安だと思う場所などについてのヒアリングを行って調整したり、定期的な巡視を強化し、病院内に危険因子・障害となるものはないかなどの環境整備に努めることも非常に大切です。
このように様々な側面から考えアセスメントをし、計画の立案・実行・評価を繰り返し、転倒の予防や再発の防止に取り組むことが大事なのです。
まとめ
まとめとして、転倒のアセスメントをするには患者の疾患や服用している薬物。
ADL、家族の協力がどの程度得られて患者を理解しているか、患者の性格や看護師側のアクションに対してそのような反応をみせるかなどの全体像をしっかりと掴む必要があります。
そこから、患者が転倒するなら、どの要因での転倒が考えられるかを順位付けを行うことで、転倒の要望に必要な対策についての優先順位の決定ができ、アプローチすることができるのです。
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