認知症がある高齢者の意識下手術における手術室看護師のアセスメント

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#1264 2020/11/17UP
認知症がある高齢者の意識下手術における手術室看護師のアセスメント
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認知症がある場合、脊椎麻酔は患者の体動により穿刺困難となるため全身麻酔になることが多いです。しかし高齢者の場合、全身状態が悪く全身麻酔に体が耐えられないと予想される方が出ています。その場合は脊椎麻酔をせざるを得ません。高齢に伴う皮膚や可動域のアセスメントと患者の基礎疾患のアセスメント、認知症を持った中で、意識下で侵襲的処置をされる患者の不安に寄り添う手術室看護師のアセスメントを記載します。

高齢化社会の昨今、手術室の患者様も例外なく年々高齢者ら増加傾向にあります。それに伴い、認知症の患者も増えています。
また、医療技術の進歩により、以前は手術対象にならなかった状態の悪い患者様もより侵襲度の低い麻酔で行える手術も増えてきました。これらの現状から手術室看護は基礎疾患が重い方の手術侵襲を考慮した複雑なアセスメントが求められるようになってきました。
その主たる例が、高齢で認知症のある大腿骨頸部骨折にて髄内定を入れる患者です。(髄内定とは大腿骨の中に一本の金属を通してしまうことで、折れた骨を修復する手術です。詳しくは他にもネジを入れたりしますが簡単に説明しています。)私の病院では、多い月は5名程おられました。
  予定で骨が折れる人はおりませんので、ほぼ全ての患者は緊急で手術にこられます。基本的にどの手術でも、採血やレントゲンで身体の状態を把握し、剃毛や腸管クリーン、絶食、禁煙などで手術リスクを減らしてから手術となります。しかし、緊急手術はこのリスクを減らす準備が出来ません。採血は行いますが、そこで貧血が分かっても、電解質異常が分かっても事前にゆっくり補正は出来ずにぐちゃぐちゃの状態のまま手術になります。例えるなら準備運動なしのフルマラソンです。それを80-100歳の高齢者が行うと思っていただけたらどれだけ危険なことか想像がつくと思います。それに加え、高血圧や糖尿病、心疾患や呼吸器疾患、消化器疾患など持っておられたら、情報を知らないままのサポートはほぼ不可能です。ですので手術室看護師は事前の情報収集は入念に行います。そこからアセスメントし、術中の看護計画へと展開します。ここがしっかり出来ていたら8割看護は成功と言っても過言では有りません。待ったなしの手術は準備が非常に重要となっていきます。
事例があった方がわかりやすいので、事例をあげます。

Aさん 100歳 男性  160cm 45kg BMI17.5

現病歴:昨日深夜トイレに行こうとして転倒、翌日朝、別居の娘が発見。意識あり、張って布団まで行って痛みで眠れなかったと。転倒後飲食なし。救急車にて本日10時搬送。頭部、患側上肢擦過傷あるが検査の結果問題なし。右大腿骨頸部骨折にて本日髄内定の手術目的で入院。手術は14時から予定。
既往:COPD(慢性閉塞性肺疾患)
HT(高血圧)
認知症(名前は言え、指示は通るが場所や、何故入院しているのかなどは分からない)
採血:Hb8.3    貧血
CRP11  炎症反応
Alb 3.1 低栄養

o)痩せて骨張っている。皮膚はカサカサしており粉が吹いている。両膝膝が曲がりにくい。唇がカサカサ乾燥している。
COPD強く、全身麻酔ではなく脊椎麻酔となる。

※アセスメント内容

1.不安
患者ははじめての手術で、しかも緊急、認知症により現状の把握が出来ていないことに加え、意識下での手術となる。
→看護師が常にそばに居てケアの前は声かけを行う。手握。
2.身体損傷リスク
認知症患者への脊椎麻酔のため急な体動が予測される。必要時抑制出来るよう麻酔時は看護師を多めにし患者を支える。またベットから移乗時も転倒の可能性あるため人員を確保する。
3.皮膚統合性障害
Alb低値であり、痩せている。手術体位固定による皮膚剥離の可能性あり、抑制は柔らかいもので行う。手術室前後皮膚の確認は入念にする。テープ固定は皮膚保護剤を使用。手術ベットに体圧分散マットを使用
4.出血リスク
現在Hb8代と低値。手術により更に出血予測。適宜出血量を医師に報告。現在低値のため輸血の準備を医師へ事前確認する
5.循環障害リスク
HTあり。脊椎麻酔により血圧低下リスクあり。昨日夜より水分摂取ないため脱水状態。輸液全開徹底必要。脱水補正で更に貧血更新予想。

看護の実際

入室時、氏名言えるがやはり手術を何のためにするのかは理解されていない。足の痛みは自覚あるため「ここを治しに行きましょうね」とお伝えする。「おん」と返事される。少なくとも拒絶的な反応ではない。

ベット移動時

何もしていない時は痛くないようだが移動時、医療者4人で行った際は振動により「いたたたたーー。痛いわー。やめてくれー!」と叫ばれる。事前に移動するので痛いと思うと伝えてあるが有効でない。患者の左頭側にいた看護師が手でバシバシ叩かれる。移動終わると落ち着かれる。
患者の頭側は男性看護師に交代。麻酔時体動要注意の印象

麻酔時

膝が曲がりにくいため曲げれる範囲で曲げていただく。患肢は医師が保持。保持中は痛みなし。麻酔前に背中に針が入るため痛みがあること伝えると「もー痛いのは嫌や」と言われる手を握り、足を治すためなので少し耐えて欲しいと伝えた。ギュッと手を握り返された。
穿刺時やはり痛みで海老反りになろうとされる。事前に看護師3人で体位保持していたため動けず。脊椎麻酔は問題なく終了。麻酔が効くことで落ち着かれる。
血圧は麻酔により一時65mmHgまで低下したが事前に輸液を急速に入れていたため昇圧薬ですぐ上昇。

体位取り

骨が当たる部分に予定通り多めにクッション挿入

手術中

固定されている手が気になるようでゴソゴソされる。手を握ってお話し相手になる。「なんや足が曲がってるけどこれでいーんか?」と体の違和感話されたり、畑の話をふるとその話をされる。
出血450ml で適宜医師に報告していたが、ここで輸血となる。メイン看護師は患者のそばにいるためもう1人看護師を呼んで麻酔科の輸血の補助を行う。事前に準備していたものをいく。

退室

出血多いが、問題なく手術終了。皮膚損傷なし。
最終Hb9.0。手術時間1時間丁度。
テープ固定場所に予定通り皮膚保護剤使用。
病棟看護師に申し送りをする。出血により輸血を行なったこと、術後創部からの出血注意するよう伝えた。

これは事例ですがこのような年齢、基礎疾患の患者はルーチンです。そしてこの事例は問題なく手術が終了出来ましたが、もし事前の輸液が少なかったら麻酔後の血圧は更に下がり中々戻って来ず、更に静脈ラインを追加することになっていたかもしれません。また輸血の準備が出来ていなかったらすぐに投与が出来ず手術を一時中断し止血時間があったかもしれません。皮膚保護のクッションを使用していなかったら圧痕や褥瘡になっていたかもしれません。事前に人を多めに配置していなかったら脊椎麻酔時患者が暴れ転落していたかもしれません。
これがアセスメントが8割と言った理由です。
このように、事前の採血データや、基礎疾患、SO情報から手術に伴うリスクを上記のようにアセスメントし、医師と協力して看護を行なっています。
コツは正直いってありません。一つ一つの疾患の理解と経験の積み重ねです。しかし、病棟と違って同じような事例を何度も手術室では体験出来るので積み重ねは容易です。まずは麻酔の知識、そこから基礎疾患、個別性へと展開出来ます。覚えることは多いですが覚えてしまえば応用は簡単です。

まとめ

手術という非日常におかれる患者のアセスメントは手術看護の8割と言えるほど重要です。待ったなしの手術にゆっくり考えている時間はないので事前の準備が大切です。手術室看護のアセスメントにコツはありません。しかし、手術に付随した麻酔の理解と基礎疾患の知識さえあれば応用は簡単です。この二つの知識を広げる努力が非常に重要だと考えています。

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