看護実習や看護師一年目の時、先生や先輩から「個別性は?」と聞かれた経験がある人は多いと思います。病態生理を頭に入れ、この疾患ならばこれに注意する、と言った大枠は答えられても、「それで、この患者さんにとって必要なことは?」と聞かれて返答に困る、そんな場面が傍から見ていると多々見受けられます。
ここでは個別性のある看護に必要な情報収集の仕方とアセスメント方法を伝えていきたいと思います。
①はじめに
「肺炎」と一言に言っても、誤嚥性肺炎や間質性肺炎、細菌性肺炎等、種類は多岐に渡ります。この違いは教科書や参考書にわかりやすく書いてあって、調べてわかりやすい違いがあると思います。
では、実際の入院患者さんに多い、「誤嚥性肺炎」を例にあげて考えてみましょうか。
②病態と個別性ってなんだろう?
「誤嚥性肺炎」について教えてくださいと実習生や一年目の看護師に問うと、治療の面としてみれば「熱型」「呼吸状態」「炎症反応値等の検査値」「抗生剤などの薬剤」がすぐに上がります。その情報からアセスメントして看護の実践に必要なものとして出てくるのが「クーリング」「吸引や体位ドレナージを用いての気道浄化」「口腔ケア」「嚥下状態の評価」でしょうか。熱型や、痰の性状や量、吸引回数、聴診の結果など、病態生理に照らし合わせてアセスメントできる情報を拾ってくれる学生さんや新人さんはとても多いです。ところが、「それらを踏まえての個別性は何か?」と聞くと、急に返答に困ってしまう学生さんや新人さんが多いです。
「個別性」を考えるには、その人、個人の情報を拾ってアセスメントする必要があります。
いくつか例に挙げて考えていきたいと思います。
③事例を通して個別性を考えてみよう!
・Aさん、70代、男性。入院前のADLは自立。無職。介護認定は受けていない。妻と二人暮らしで飲酒の習慣があり、入院前に多量のアルコールを摂取して嘔吐、吐瀉物を誤嚥して誤嚥性肺炎になり入院した。
・Bさん、60代、男性。入院前のADLは自立。独居。会社員。仕事中に脳出血で入院し、急性期の治療は終えたものの片麻痺が残り、嚥下機能が低下。入院中に誤嚥し、誤嚥性肺炎を発症した。
・Cさん、80代、女性。要介護4。家族は他県に住んでいて、あまり面会に来れない。施設に入所中で入院前のADLは全介助。誤嚥性肺炎で入退院を繰り返している。
簡単に三つほど例に挙げてみました。こうして並べてみると、同じ誤嚥性肺炎の診断がついていて、治療としては熱型を見て、気道浄化して、抗生剤での治療結果をデータとして見ていく流れは同じでも、入院前、入院後の注意点が違うことがアセスメントできるでしょうか。
④個別性を踏まえてアセスメントしてみよう!
・Aさんは元々ADL自立です。入院中に大きくADLが低下しなければそのまま自宅退院が出来ると思われます。しかし、再発予防の観点から、過度の飲酒を繰り返し、酩酊状態からの誤嚥のリスクは存在します。アルコール中毒の治療として考えると、精神科との連携や家族の協力が必要なことがアセスメントできます。
・Bさんは入院前後のADLが大きく変わっています。片麻痺と言う障害が残り、元のように会社員として働くことは困難でしょう。Bさんの現在のリハビリの状況を確認し、退院先は自宅で大丈夫なのかどうか、退院後の協力を得られる家族はいるかどうか、会社や経済状況に不安はないか、介護認定は受けているかどうか、介護認定調査を受けたうえで、介護サービス導入のの必要はあるかどうか。リハビリスタッフやMSWと連携して退院後の支援や退院先の選定をする必要がありそうです。
・Cさんは入院前後でADLは全介助と変わらない様子ですが、施設の条件がCさんに当てはまっているか確認する必要があります。施設によっては車椅子に乗車しての食事が条件だったり、胃瘻や吸引等の医療行為ができなかったり、夜間は看護師がいなかったり、看取りはやっていなかったりと様々な条件があります。Cさんがその条件にそぐわない状態になりそうな場合、早々に退院先を選定しなおしていかないとずるずると入院が長引いて病院での看取りになりかねません。
⑤まとめ
以上に上げた通り、個別性のある看護を考えるには、「患者さんがどこから入院して来て、どこへ退院していくのか」が重要になります。
入院前の生活や退院後の生活の予想がそのまま患者さんの個別性に繋がるのです。個別性のあるアセスメントをするためには入院時のアナムネ用紙や前回入院の看護サマリー、長期入院されている方ならば中間サマリーや、施設やから届く看護サマリーや介護サマリー、リハビリサマリーなどの記録から入院前の情報収集をする必要があります。
ご家族の構成や介護や看護に協力できる家族はいるかどうかの把握、介護認定を受けているかどうかや金銭面での不安がないか、それらを普段のコミュニケーションから情報収集し、その患者さんにとって退院先は妥当かをアセスメントする必要があります。
退院先を見据えたうえで看護介入し、医師やリハビリスタッフやMSW等の他種職と連携していけば、入院期間を短くすることは可能だと思います。
どこの病院、病棟でもよく見かけるのが原疾患の治療は終えたけれども退院先が決まらず、退院できるタイミングで退院を逃し、誤嚥性肺炎や尿路感染症を発症、または再発して入院期間が延びる、それを繰り返してADLが低下していく、と言う流れです。
患者さんが退院するには退院する先の受け入れ状態が整っている必要があります。入院前後でADLが変わってしまった患者さんや、家族が不仲で受け入れ態勢が整っていない患者さん、入院前に入所していた施設の条件から逸脱してしまった患者さんはたとえ治療が終わったとしても、すぐに退院できない実情があります。
患者さんが退院できる時に退院させてあげられるよう、入院時から退院を見越して情報収集し、アセスメントして、看護介入していく必要性を理解していただけたでしょうか。
退院先が自宅であり、患者家族が経済的不安や患者当人を自宅で介護していくのに不安を覚えている場合は、退院支援として食事介助や、排泄ケアや口腔ケア、移乗動作など、日常生活の介護の仕方をPT、OT、ST、に介入してもらいながら指導していく必要がありますし、それでも家族での介護が困難ならばMSWに繋げて介護認定の見直しや使える介護サービスの調整、自宅での介護が困難ならば退院先の施設の選定のし直しをしていく必要があります。
独居で家族の協力が難しい場合は早々にMSWに介入していただき、金銭面での不安はないか、介護認定の見直しや場合によっては生活保護の申請など、入院中に考慮する必要があります。
施設からの入所で、入所の条件がはっきりしているのなら、リハビリスタッフに早々に相談してその条件がクリアできか、困難か評価してもらわなくてはいけません。リハビリスタッフと看護師の連携が取れておらず、退院する間際になって「施設から車椅子乗車での食事が受け入れ条件ですが、できそうですか?」とリハビリスタッフに告げても、そこからのリハビリの実践と評価になってしまうので退院までの道のりが遠のいてしまうことがあります。
⑥おまけ
先生や先輩から「個別性は?」と問われた時、現在の治療の段階を踏まえたうえで、退院先はここだから、この支援が必要です、と言えればパーフェクトだと思います。
まとめ
看護師に求められる患者の個別性に対するアセスメントをしていくならば、病態だけではなく、患者の入院前後の生活情報を収集していくことが必要です。自分が見ているのは急性期だから病態だけでいいとはなりません。患者さんの早期退院に必要なことは、入院した時から退院先を見越して介入していくことが、とても大切です。医師だけでは手が回らない場所ですので、看護の力の見せ所だと思います。
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