緩和ケア病棟とはどのような病棟なのでしょうか?就職・転職するうえでの注意点は?わたしが緩和ケア病棟に勤務していて、経験したこと・感じたことをお話ししていきます。
緩和ケアとは
正看護師となった当初、わたしは県下のがんセンターに就職し3年余り勤務していました。その後退職し10年間のブランクを経て個人病院に転職、総合病院、デイサービス・有料老人ホーム等の派遣と様々な勤務形態の施設に転職しました。
総合病院には複数勤務してきましたが、もともとがんセンターに勤務していて緩和ケアに興味を抱いていたわたしは、ある総合病院で緩和ケア病棟勤務を希望し5年間を緩和ケア病棟で過ごしました。
緩和ケアとは、がんなどに代表されるような生命を脅かす疾患から患者やそのご家族の身体的な痛みや心の悩みを早期に発見し、その苦しみを予防し和らげて少しでも良い生活を送ってもらう対処方法です。
緩和ケア病棟には末期患者が入院していてターミナルケアを受けているのですが、その最終目的は、出来得る限り人として尊厳を維持し健常者と同じ生活を送ってもらうことなのです。
わたしが緩和ケア病棟勤務を希望した理由
なぜわざわざ余命いくばくもない末期患者の病棟勤務を希望するのか。
人からそのように問われたことも一度や二度ではありませんでした。
わたしの場合、出身病院ががんセンターであり緩和ケアと近い環境で勤務していたということもあります。様々な看護勤務歴を重ねていく中で、緩和ケア病棟で勤務してみたいという気持ちに傾いて行ったのです。
患者の生命を尊重し、死を早めるのではなく引き伸ばしもせず、痛みやその他の苦痛から患者を開放し、家族の悩みに寄り添い、患者が死を迎えるその時まで人生を前向きに生きていく手助けをする。そういう看護をしてみたかったのです。
緩和ケア病棟で勤務しながら、緩和ケアの認定看護師になるというのがわたしの最終目標でした。緩和ケア病棟に最初から就職するというのはハードルが高いかもしれません。
緩和ケアのむずかしさ
現在、日本では3人に1人ががんで亡くなっています。
がんなどにより末期の状態となると、病院に勤務する医師といえども平静ではいられず、入院していた病院を抜け出し飛び降り自殺をした医師がいたということを聞いたことがあります。死と間近に向き合っている医師でもそうなのです。
また、平静を保っていたと思われた患者さんが、病院の窓から飛び降り自殺を図ったケースも目にしました。その時は、自分が夜勤業務を終えて引き継ぐ際に、「あの○○さんは精神的に不安定なので気をつけて看ていてね。」と申し送りした後のことなので余計にショックでした。
その日担当していなかったわたしでもそのような状態だったのですから、その時に担当であった看護師・ヘルパーにとってはどれほどの衝撃だったでしょうか。
その反対に、末期がんで死期が近づいていた患者さんで、家族や看護師がいくらなだめ寄り添っても泣きわめいて止まない人がいました。
その患者さんはある宗教団体の信者でした。
ある日、宗教団体の幹部と思しき人たちがその患者さんの面会に訪れました。
宗教団体の方たちが病室に入室するときまでその患者さんは泣きわめいていましたが、宗教団体の方たちが患者さんと会話をしていくにつれ病室から泣き声が聞こえなくなっていくのでした。
その後、その患者さんは悟りを得たようにすがすがしい表情になり、数日後、従容として死を迎えたのでした。この時ばかりは、人の信仰の偉大さに感じ入りました。
緩和ケア病棟に入院していたある男性患者と家族の思い出
その患者さんは、70代のやせた男性患者さんでした。
その男性患者さんを仮にAさんと呼ぶことにします。
Aさんは生保(生活保護)を受けていて家族との交流があまりない孤独な方でした。
Aさんに話を聞くと、Aさんには息子さんが2人いることがわかりました。
理由はわかりませんが折り合いが悪く2人とも音信不通の状態でした。
Aさんが病院を受診に来たときにはすでに末期がんの状態でしたので、私の勤務する緩和ケア病棟に入院してきました。
わたしはAさんの状態を看て家族に連絡を取ろうと思い立ち
「Aさん、連絡するご家族はいらっしゃるの?」
と聞いたところ
「看護師さん。わたしには2人成人した息子がいるのですが、恥ずかしながら2人とも折り合いが悪く音信不通となっているのですよ。」
と言われました。
渋るAさんから2人の連絡先を聞き出したわたしは、息子さんたちに連絡し、「父親の面倒は見たくない」という2人を説き伏せ、何とか病院に来てもらうことにしました。
2人の息子さんにAさんの症状・今後の見通しを説明したところ、苦しむAさんの姿を間近に見た弟は心を動かされ、Aさんに付き添うことにしてくれました。他方、兄の方は「おれは父親に付き添いたくない。金銭的に面倒を見るよ。」ということで折り合いがつきました。
兄弟が病院に面会に来る都度、2人は過去のAさんの話をしていくようになりました。
次第に2人の面会の回数は増えていき、いつか兄も自然にAさんに付き添うようになり病室に泊まるようになりました。(緩和ケア病棟では家族の宿泊も認めています)
兄が仕事に出かける際には、わたしも「いってらっしゃい。」と声をかけました。
でも、「これがAさんとの最後の別れになるかもしれない」ことも伝えていました。
そのうち、兄は覚悟して仕事に出かけるようになりました。
Aさんはだんだん話すこともままならなくなっていきました。
ついにAさんとの最後の別れがやってきました。
2人の息子はしっかりとAさんの最期を看取ることが出来ました。
「ありがとう、看護師さん。看護師さんの計らいで父親をしっかり送ることができたし、父親と和解することができたよ。」
とわたしに2人は言ってくれました。
この時、わたしは「緩和ケア病棟に勤務していてよかった。」とつくづく思うことができたのでした。
まとめ
わたしが緩和ケア病棟に勤務した経験から、これから就職・転職しようとする医療従事者の方に言いたいことは、緩和ケア病棟の患者さんは死期が近い方かもしれませんが、その患者さんに対し一個の人間として生命を尊重し死を自然なことと認めることが重要なのだということです。
これから緩和ケア病棟に就職・転職しようとするみなさん。
緩和ケア病棟には暗いイメージがあるかもしれませんが、看護師としてやりがいのある仕事です。常に患者さん・ご家族に寄り添う気持ちを忘れずに仕事に励んでください。
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